第8章 ー生ー
大きくおなり…
照の願いが通じたのか、智はすくすくと育ち、十を迎える頃には、照も目を見張る程美しく成長していた。
少しずつ言葉を覚え、自分の足で立って歩くようにもなった。
それは照がほんの僅かな暇(いとま)も惜しんで、智の世話をしてきた賜とも言えるだろう。
でも白い髪が黒くなることもなく、紅玉のような目も黒くなることはなかった。
照は智の長く伸びた銀糸の髪を櫛でとかしながら、透けるような白い肌をそっと撫でた。
「一体いつになったら…」
言いかけて照は口を噤んだ。
すると智は擽ったそうに身を捩りながら照を見上げ、小首を傾げにこりと笑って見せた。
そして紅玉の目を何度か瞬(しばた)かせると、傍らで眠る母親の横にぴたりと寄り添い、小さく白い身体を横たえた。
「ああ、なんてことだい…。折角綺麗になったのに、これじゃ台無しじゃないか…」
呆れ口調で肩を落とす照を横目で見ながら、智が無邪気な笑い声を立てる。
「全くしようのない子だねぇ、智は…。ほら、こっちへおいで…」
少し強い口調で言うと、流石に照が怒っていると思ったのか、智はぷいと顔を背け、いつまで経っても物言わぬ母親の胸に腕を巻き付けた。
そして白い肌に咲いた赤い華弁のような唇を僅かに動かすと、
「かあた…、おっきは…?」
未だに目覚めることの無い母の、すっかり痩せこけた頬を小さな手で叩いた。
照はその姿を見る度に、溢れ出沿うな涙を堪えるのに必死だった。