第8章 ー生ー
こんなに小さいのに…
力加減を間違えれば、手の中でくしゃりと潰れてしまいそうなくらいにか細いのに…
それでも渾身の力を込めて小さな産声を上げる手の中の白い塊に、照の目頭が知らず知らず熱くなる。
悪魔の子…
殺せ…
大野の放った冷酷無比とも言える言葉が、照の脳裏で何度も木霊する。
この子が仮に正真正銘悪魔であったとしても、この子に罪はないのに…
かさつく頬を伝った涙が、一粒、また一粒と、盥に満たした湯面に落ちては波紋を作った。
いっそのこと、死産だったことにしてしまおうか…
照は小さな塊を真新しい木綿で包み、手足をばたつかせ、元気な泣き声を上げる先に産まれた赤ん坊の横に並べて寝かせた。
すると不思議なことに、それまで火が付いたように泣いていた赤ん坊が、ぴたりと泣き止んだ。
それどころか、きゃきゃっと笑い声まで立てている。
「安心…したんですかね…」
大野の妻の産後処理を済ませた二宮医師が、口元を覆った布を外しながら、小さな寝台を覗き込んだ。
「あの…先生、お話が…」
照は二宮医師の白衣の袖を掴んだ。
その切羽詰まった様子に、二宮医師は一瞬表情を強張らせたが、すぐに柔らかな笑みに代えて、照に向かって頷いた。
「分かりました、お聞きしましょう。でもその前に、重湯を用意していただけませんか? …一つだけ」
「は、はい、ただいま…」
照は急いで部屋を飛び出すと、廊下に控えていた相葉に、重湯を用意するよう言い付けた。