第8章 ー生ー
すっかり夜が明けているというのに、まるで夜のような…漆黒の闇に、雷鳴が轟き幾筋もの稲妻が走る。
そして傍らに寝かした赤ん坊の、甲高い泣き声。
乳が欲しくて泣いているのだろう。
その一瞬の合間を縫って、最早僅かな意識すら止めていない身体から、小さな…両の掌に乗せても余る程に小さな赤ん坊が産み落とされた。
産声を上げるでもなく、浮き出た肋を小刻みに痙攣させる小さな塊は、透き通るように白く、薄く生えた産毛はまるで銀糸のようで…
「ひっ…!」
凡そ人の子とは思えないその姿に、照は小さな悲鳴を上げてその場に尻餅を着いた。
「せ、先生…、これは一体…」
股の間に放り出されたままの白い塊を差す指が震えた。
「わ、私にも…何が何だか…」
二宮医師の声も、心なしか震えているように聞こえた。
そして恐る恐る両手を伸ばすと、小さな白い塊を掬い上げ、傍にあった木綿布に包んだ。
「取り敢えず産湯に…」
「え、ええ、そうね…」
照は二宮医師の手から、木綿布に包んだ小さな塊を受け取ると、丁度良い湯加減に冷ました湯の中に浮かべた。
するとそれまで閉じていた瞼が開き、僅かな隙間から紅玉のような瞳が覗いた。
そして白い頬を仄かに赤く染め、顔をくしゃりとさせると、触れたら折れてしまいそうな細い足を微かに動かした。
「ふ…ふぇ…っ…」
それは今にも消えてしまいそうな…か細くも弱々しい産声だった。