第2章 ー月ー
潤は知っていた。
偶然とはいえ、見てしまったから。
照が毎朝毎晩、食事の膳を手に、蔵に出入りしている姿を…
そして、照が蔵を出た後、数人の男達がその蔵に入って行く姿を、見てしまったから。
それは一度や二度のことではなかった。
決まった曜日、決まった時間に蔵を訪れる男達。
男達の顔触れは毎回同じではなかった。
男達は皆一様に蔵の中で数時間を過ごし、時が来るとまるで逃げるように、周囲を伺いながら通用門から屋敷の外へ出ていった。
そしてその後を追うように蔵に入って行く翔の姿。
翔もまた数時間を蔵の中で過ごし、男達と同じように、時折周囲を伺っては、母屋へと駆けて行った。
そんな光景を何度となく目にして来た潤には、ある疑念が浮かんだ。
あの蔵には誰かいるのかもしれない…
考えれば考える程、潤の疑念は益々大きく膨らんでいった。
潤は日々の仕事を淡々とこなしながら、機会を伺っていた。
ある事を実行するためだ。
照が蔵に膳を運ぶのは、朝と晩の二回。
だがその時間は極めて短く、どう考えてもその間に忍び込むのは困難だし、外から錠を掛けられてしまっては元も子もない。
ならばあの男達が蔵の中にいる間であれば、中の様子ぐらいは伺い知ることが出来るかもしれない。
男達が蔵に出入りするのは、決まって週に二回。
火曜と金曜の夜。
潤の意識は絶えず蔵に向けられた。