第2章 ー月ー
成年へと成長した潤は、屋敷での仕事にも慣れ、下働きだけではなく、大野家の執事の手伝いまで任せられるようになっていた。
生来の生真面目な性分が功を奏したのか、潤の目を見張る仕事ぶりは、誰もが認めるところだった。
あの恐ろしかった照でさえ、潤を我が子のように目をかけるようになっていた。
照は元々家族とは縁のない人生を送ってきたせいか、親に捨てられたも同然の潤が不憫で仕方なかったのだ。
潤もまた、厳しくはあったが、常に自分を気にかけてくれる照を、時には疎ましく思いつつも、まるで母親のように慕うようになっていた。
そんなある日のこと…
全ての仕事を終え、遅い夕食を自室で取りながら、潤は屋敷に連れてこられた時から、ずっと気になっていたことを照に問いかけた。
「本宅の横に古い蔵があるでしょ? あそこには何があるの?」
潤の問に、照の箸がピタリと止まり、まるで苦虫を噛みつぶしたような顔に変わる。
「あそこには…ほら、あれだよ? 大野家の…」
明らかに同様している、そう感じた潤は更に言葉を続けた。
「よっぽど人に見られちゃ困るような、凄いお宝でも隠してんのか?」
箸を止めることなく、潤は惚けた口調で言う。
「あ、あぁ、そうだよ。大野家に代々伝わるお宝がたんと隠してあるんだよ。どっちにしろ、お前には関係のないことだよ…」
それ以上語ることなく、照は押し黙ったように、黙々と食事を続けた。
潤も黙って食事を続けたが、その目は照に対する疑念に満ち溢れていた。