第8章 ー生ー
そんな照の祈りが通じたのか、それから程なくすると、それまでの強烈な痛みが噓のように引き、大野の妻は幾重にも積み上げられた枕に身体を埋めた。
すると不思議なことに、それまで夜と見紛うばかりの曇天の空から、厚い雲を裂くように光が差し込んできた。
終わった…
一瞬の安堵が照の身体から全ての力を奪って行った。
それが束の間の休息だということも知らずに…
「奥様、お疲れ様でございましたね…」
命がけの大仕事を無事終えたことへの労いの言葉をかけながら、玉のような汗を拭った。
そして未だ股の間を覗き込んでは、首を傾げる二宮医師に目を向けると、それまでの強張った表情とは違う、柔らかな笑みを向けた。
「医師(せんせい)もご苦労様でございました。今お茶でも淹れますから…」
そう言って大野の妻から離れた、その時だった。
部屋の扉が物凄い音を立てて開け放たれた。
そして、大幣(おおぬさ)を手に祝詞を唱える巫女を従え、高笑いをする大野が部屋に入って来た。
「旦那様、お生まれになりましたよ。とても可愛らしい坊ちゃまでございますよ」
照は産まれたばかりの赤ん坊を抱き上げ、まるで我がことのように大野に向かって喜びの声を上げた。
「ささ、抱いて上げて下さいまし」
綿入れに包んだ赤ん坊を大事に大事に、それこそ壊れ物を扱うかのようにして大野の前に差し出した。