第8章 ー生ー
「男のお子様ですよ」
二宮医師は産まれたばかりの赤ん坊を木綿の綿入れに包むと、照の腕に抱かせた。
なんて小さくて柔らかい…
照は頬擦りしたくなる気持ちを抑え、赤ん坊を別に設えられた寝台に寝かせると、草履ばきの足をぱたぱたと鳴らして部屋の扉を開いた。
「誰か、旦那様を! 若様がお産まれに…!」
屋敷中に響き渡る声を上げた。
その時だった、扉の間から顔だけを出した照の背後で、未だ鳴り止まぬ雷鳴をも掻き消すような、まるで断末魔のような叫びが上がった。
「い、いやぁぁぁぁぁっ…………!」
奥…様…?
照はすぐ様妻の元に駆け寄ると、天井から吊った布紐を引き千切る勢いで叫ぶその背中に手を添えた。
「医師(せんせい)これは一体どういう事なの…!?」
お産は無事に終わった筈…
それなのにこの苦しみようったら…
「医師(せんせい)!」
今にも掴みかからんとする照の声に圧倒されたのか、二宮医師は首をふるふると震わせると、再び大野の妻の股の間に顔を埋めた。
「これは…何と言うことだ…」
逼迫したような物言いに、照の胸に不安が過ぎる。
どうしたと言うの…?
それにしても遅い…
奥様の大事に旦那様は一体何をしておいでなのか…
忙しなく動かす手を止めることなく、照は医師と扉とを交互に見やった。
神様仏様…
どうか奥様をお助け下さい…
心の中で何度も祈りながら…