第8章 ー生ー
辺り一面を、あっという間に闇が包んだ。
そして、来る日も来る日も待ち望んだ恵の雨が、乾いた地面を濡らし始めた。
次第に強くなる風雨に、その場にいた誰もが立っていられない程だった。
「奥様、早くお屋敷の中へ…」
照は巫女に叩かれた頬を赤く染め、大野の妻の手を引いた。
けれど大野の妻はそこから一歩も動くことなく、それどころか、足元を眺めて呆然とした顔をしていた。
「奥様、雨に濡れてはお身体に障ります。どうか早く…」
身重の身体を気遣うように、照が腰に手を回すが、それには応えることなく、大野の妻は首をゆっくり横に振った。
「奥様…?」
「どうしましょう…。私…、破水してしまったようだわ…」
「えっ…?」
子供を持たない照には、それが何を意味する事なのかは、さっぱり分からなかった。
けれど、事の重大さだけは、その様子からも見てとれた。
「とりあえずお屋敷へ…。お医者様をお呼びしましょ?」
「そ、そうね…。それが良いかもしれないわね…」
照に支えられ、蒼白になりながらも、小さく一歩を踏み出した妻だったが、「あっ…」と小さく悲鳴を上げると、突然腹を抱えてその場に蹲ってしまった。
「奥様! 誰か! 旦那様、奥様が!」
激しい雨に掻き消されながら、照は声の限り叫んだ。