第8章 ー生ー
「奥様、参りましょう? ここは照り返しが強すぎます」
照の言葉に「そうね」と短く返すと、大野の妻は大きな腹を抱えて、踵を返した。
その時だった。
「お待ちくだされ」
巫女が祝詞を止め、少しだけ反った背中に声をかけた。
「私に何か用かしら?」
首だけで巫女を振り返り、さも面倒くさそうに言葉を返す。
「産んではいけない…」
巫女は唸るように言うと、祭壇の前に敷かれた茣蓙(ござ)から立ち上がると、裸足のままで芝の上に降り、身重の身体を舐め回す様に眺めた。
「その腹の子は悪魔だ…。産んではいけない…」
まるで汚らわしい物でも見るように、巫女は顔を顰め、手にした大麻(おおぬさ)を妻の腹に向かって振りかざした。
「な、何ですの、一体…。おやめなさい…」
目の前で、右へ左へと振られる大麻から避けるように、大野の妻は一歩二歩と後ずさる。
「お、お止め下さい…!」
見兼ねた照が間に入り、巫女から庇うように両手を広げた。
「ええーい、どかぬか!」
「いいえ、どきません!」
照は怯むことなく巫女に掴みかかり、巫女の手から大麻を取り上げた。
「この罰当たりが!」
激昂した巫女の手が、照の頬をめがけて振り下ろされた。
瞬間、
遥か遠くに稲妻が光り、まるで地鳴りのような雷鳴が響いた。