第8章 ー生ー
巫女は手厚過ぎる大野の饗(もてなし)に応えるべく、三日三晩と空けること無く、祝詞(のりと)を捧げ続けた。
大野の主も、当然のことながら、時間の許す限りはそれに付き合った。
それでも巫女の祈りは天に通じることは無く、一週間が過ぎた。
その頃になると、巫女の顔にも、そして大野の顔にも疲労の色が濃く浮かび始めた。
「もうそれくらいでお止めになったら?」
普段は身体が弱く、自室から出ることなど殆どない大野の妻が、日に日にやつれて行く夫の姿を見るに見兼ねたのか、出産を間近に控えた大きな腹を両手で支え、庭先に降り立った。
その脇には、身重の身体を気遣うように、女中の照が日傘を手に立っている。
「案ずることはない。それよりも、ここは日差しが強すぎる。早く屋敷に戻りなさい」
冷たく言い放ち、大野の主はまた巫女に習って祝詞を捧げ始めた。
所詮親同士が勝手に決めた結婚。
妻に愛情などなかった。
ただ腹の子だけは、いずれ大野の家督を継ぐ者として、何物にも代えがたいものだった。
それは妻も同じで、金意外に興味示さない夫を、疎ましくも思っていた。
こんな男と、いくら親の決めたこととはいえ、結婚などしなければ良かった。
そうしたらもっと違った人生が…
何度そう思ったことか…
その思いが、漸く授かった腹の子にすら、嫌悪感を抱かせてしまったのかもしれない。