第8章 ー生ー
その年、数年ぶりに村を襲った干魃(かんばつ)に、農作物は枯れ果て、それだけを生活の糧としていた民は貧困に喘いでいた。
そんな中、村の名士でもあった大野の屋敷に、雨乞いのための巫女が呼ばれた。
名士とは言え、これ以上干魃が続くことは、あまり喜ばしいことではないのだ。
そこで頭を悩ませた大野の主は、隣村で噂になっていた巫女を呼び寄せることにした。
巫女は屋敷に一歩足を踏み入れた途端、元々皺だらけの顔に、より一層深い皺を刻んだ。
「不吉じゃ…。この屋敷には邪悪な気が漂っておる…」
巫女の言葉に、大野の主は、不愉快と言わんばかりに微かに眉を顰(ひそ)めた。
直ぐにでも巫女を屋敷から追い出してしまおうかとも思ったが、これ以上村の民からの訴えを聞くのは、正直なところ辟易としていたし、雨乞いの儀式が成功すれば、大野の名を今よりも上げるまたとない機会。
どうせ巫女風情の言う事と、心の底からは信じてはいなかった。
大野の主は、巫女をそれはそれは丁重に扱った。
言われるまま、手入れの行き届いた庭に神事用の祭壇をしつらえ、供え物もこれでもかと言わんばかりに用意した。
全ては大野の名と財力を、世間に見せつけるためのことだった。