第7章 〜空〜
やっと火が消し止められる頃…
翔はもう、声を出す力も残っていなかった。
周りを見渡して智の姿を探せども探せども、目に入ってくるのは違う顔。
「おい…こりゃあ、潤が飼っていた犬ころじゃねえか?」
どこからか声が聞こえてくる。
「ご、すけ…」
翔は、その声の方向に手を伸ばした。
「え…?坊っちゃん、この犬をご存じですかい?」
こくりと頷くと、よこせと翔は更に手を伸ばす。
「じゃ、じゃあ…」
使用人は翔の手に五助を渡した。
「ごすけ…」
かすれた声で呼ぶと、五助は一つ小さく鳴いた。
ぎゅっと小さな体を抱きしめると、翔は立ち上がった。
火の消し止められた蔵からは、まだ小さな細い煙がたっている。
「坊っちゃん!まだ近づいちゃあいけません!」
そう言われるのも無視して、翔は蔵の扉があった場所に立った。
じっと翔が焼け跡を見つめていると、真っ黒な塊が空に昇っていくのが見えた。
「とーさま…」
その黒い塊を目で追っていくと、急にそれは赤い大きな手が出てきて焼け跡の中に引きずり込んでいった。
断末魔の叫びが、翔には聞こえてくるようだった。