第6章 雪・月・華 ~その白き腕に~
智を横たえると、我に返っている自分に気づく。
俺は…あんな汚い男たちとは…違うんだ…
「智…?俺は智とはあそばないよ…?」
「潤…」
手ぬぐいを手にとって、潤は智の精を拭った。
蕾の周りの掻きだした精も拭う。
きれいになると、乱れた襦袢を直した。
見上げる智の赤い目を、潤は見つめた。
「お話しようね…」
そう言うと、懐で眠る五助を出した。
智に手渡すと、大事そうに抱きしめた。
「五助…」
頬ずりすると、膝の上に載せて白い手で五助を撫でた。
そんな智の隣に座ると、そっと細い肩を潤は抱き寄せた。
智はその広い胸に凭れかかった。
「今日は…どんなお話をしてくれるの…?」
「そうだな…鉄道の話をしようか…」
最近お屋敷の近くに鉄道の駅ができた。
潤は他の使用人に聞いた、陸蒸気の話をした。
親に売り飛ばされた潤には藪入りに帰るところがない。
金に汚い主人の元では、外に出て藪入りを過ごすこともなかった。
だから、人から聞いた話を聞かせた。
智は目を輝かせてその話に聞き入った。
「じゃあ、人が動かさなくても動くの?」
「そうだよ石炭っていうので動くんだ」
「石炭…?」
「石がね…燃えるんだよ」
ろうそくの炎を眺めながら、智は思いを馳せていた。
智は陸蒸気というものがなんなのかもわかっていない。
わかっていないが、潤の話に夢想するのが好きだった。