第6章 雪・月・華 ~その白き腕に~
「ねえ、次はどんなおはなしをしてくれるの?」
「そうだなぁ…」
潤が考えこむと、智はまた五助を撫でる。
その姿を見ながら、潤は胸が締め付けられる。
自分は貧しく学校なんて行けなかった。
もっと自分に学があれば、智にしてやれる話もあるのに。
「潤…?」
「ん…?」
「海ってどんなものなの?」
「海かあ…」
潤は小さいころ連れて行かれた漁村の小さな浜辺を思い出した。
初めて嗅いだ潮の匂い。
空を舞う海鳥たち。
見渡すとどこまでも青い水平線。
波打ち際には白いちりめんの布が舞っているようだった。
智にそれを聞かせてやると、目を輝かせて喜んだ。
「海の水はどんな味なの?」
「お魚みたいな塩気だよ」
「しおっからいの?」
「そうだよ」
五助の耳を弄りながら、智は天井を見上げて海を夢想する。
「みてみたいなあ…海…」
「うん…」
潤もたった一度しか見たことのない海を思った。
浜辺で漁師が食べさせてくれた、焼いたはまぐりの味が忘れられない。
「潤、お口がもぐもぐしてる」
「あっ…」
「何してたの?」
「…美味しいものを食べたの思い出したの!」
そう言って赤面すると、智が笑い転げた。
「潤の食いしん坊!」