第5章 最憶君 <based on 雪・月・華>
外に雨が降り始めた。
強い雨が降るなか、父様がすごい剣幕で僕の部屋に入ってきた。
そのまま引き摺られるように蔵に連れていかれた。
父様は『智に悪い虫が付いたようだ』と言って中に入っていった。
蔵の前で見張りを命じられた僕はそれに逆らうことも出来ず時折聞こえてくる智くんの悲鳴のような声に耐えるしかなかった…。
足音が聞こえて顔を上げる。
人影に警戒を強める。
声が聞こえてそれが僕の遊び相手として宛がわれた潤だとわかった。
この蔵の中のことを知られる訳にはいかない…。
追い払おうとした時、鳴り響いた雷鳴。
稲妻が潤の手元で鈍く反射した…。
父様の所在を確認する潤の顔を見て悟った。
こいつ…全部知ってる…。
鉈を首もとに押し当てられ僕は潤の問いに答えるしかなくて…。
潤は子犬を僕の腕に抱かせると着ていたカッパを僕の肩にかけて、そのまま中に入っていった。
雨で冷えきった身体に子犬のくれる温もりはとても暖かく感じた。
雷鳴と雨音の間に短く聞こえた悲鳴。
あぁ本物の悪魔がこの世から消えたんだ…。
雨で濡れた地面に崩れ落ちる。
智くんをここから解放できる。
助けに行かなきゃって思うのになぜか足は動かない。
僕が智くんに付けた所有の証。
あれが父様にばれたんだ。
そのせいで…。
動けずにいる僕を嘲笑うかのように蔵から火が上がった。
腕から逃げた子犬を追いかけた僕がそこを離れるのを待っていたかのように一気に広がる炎。
降りしきる雨にも衰えない火の手はあっという間に蔵を焼き尽くした…。