第5章 最憶君 <based on 雪・月・華>
蔵を焼き尽くした焔が鎮まっても僕はそこから動けなかった。
五助と呼ばれていた子犬を抱いたまま、そこにいた。
雨が止み、陽が昇り頭上には智くんが見たいと言っていた広く青い空が拡がっていた。
智くん…智…。
これは僕に与えられた罰なんだね…。
貴方を感情のまま抱いてしまった僕への罰。
貴方は…天女のように天に帰ってしまったんだね…。
貴方を天に導く羽衣は…あいつだったんだね…。
気がつくと照がそこにいた。
この人も…大事な人を喪ったんだって遠いところで思う。
天に向かって伸びる青と紫の光の筋…。
智くん…自由になって幸せ?
ごめんね、ごめんね…。
不甲斐ない僕を許して…。
どうか、自由な空で…幸せになって…。
溢れる涙を子犬が舐める。
智くん…愛してる…。
青い光が小さく光った気がした…。
雪月花時最憶君。
いつもどんな時も貴方を思う…。
いままでも、これからも永遠に…。
〈最憶君 了〉