第5章 最憶君 <based on 雪・月・華>
「違う…遊び?」
「うん、そとにはいろいろなものがあるって。
うんとひろいそらがずーっとひろがってるって…」
頭上にある明かり取りの窓から微かに見える空。
「いまのあそびよりもたのしいことがたくさんあるって…。
だからぼく、はやく”人間”になってしょうくんとあそびたいんだ」
そう言ってふんわりと笑う。
なに?
どうなってるの?
何を言ってるの?
誰かに聞いたことを話すような智くん…。
誰?誰が智くんに外のことを教えたの?
あいつらじゃないのはわかってる。
あいつらにあるのは己の欲望だけ。
智くんに何かを伝えるなんてあり得ない。
それは父様も同じ。
そして僕も…。
父様は智くんをここに縛り付けるために余計な知識を与えない。
だから智くんは僕と同じ年齢なのにいつまでも無垢で純粋な子供のようだ…。
僕が伝えられないのは…。
ここから出してあげられないのに憧憬だけを植えつけるようなことをしたくないから…。
なのに、誰かが智くんに教えたんだ…。
この空間の外に広がる広い世界のことを…。
この時の僕は愚かだったと思う。
憧憬は生きる糧になるのに…。
外の世界が智くんにとっての希望になり、光になったのに…。
そんな事さえ気がつかず、ただ智くんに外の世界を教えた人物に憤りを覚え、真っ黒な何かに心を塗りつぶされたんだ。
嫉妬したんだ…。
そして…僕は…。