第5章 最憶君 <based on 雪・月・華>
『誰かに盗られるぐらいなら自分のものにしてしまえばいい…』
誰かが僕に囁く。
目の前の白く華奢な人。
僕の片割れ…。
もうひとつの僕の魂…。
もう一人の自分…。
「智くん…」
「なぁに?しょーくん?」
僕の呼び掛けに素直に返事を返す美しい八百比丘尼…。
八百比丘尼は天女だったという説もあるらしい…。
いつか天に帰ってしまうなんて…。
そんなの嫌だ!
帰らないようにしてしまえばいいんだ…。
自分の中に灯る昏い感情。
黒い炎がじりじりと僕の身を焼き尽くす…。
白い手首を引っ張り抱き締める。
「しょーくん?」
突然のことに驚きどうしたの?という顔で僕を覗きこむ紅い瞳。
僕は…もうとっくに狂ってたのかもしれない…。
紅い唇に自らの唇を押しあて、貪るように智くんの口腔を犯す。
執拗なまでのくちづけに智くんの目に怯えが走る。
そんな瞳で見るなよ!
唇が離れ、お互いの間を銀の糸が繋ぐ。
「しょーくんも…ぼくとあそぶの?」
殴られたような衝撃を感じて僕は必死でそれを否定する。
「ちがう!違う!
あんなやつらとは違う!
遊びじゃない!遊びなんかじゃない!
愛してる…、愛してるよ智!
愛してるんだ…智くんのことを…」
「しょーくん…ないてる。
どっかいたいの?
いいよ?あいするをしよ?」
その一言に僕の心は焼き切れた…。