第3章 ー華ー
「もうあなたを一人にはしない」
ゆらゆらと揺れる蠟燭の灯りを映した赤い瞳を見つめ、額や頬にへばりついた長い髪を指で梳いてやりながら、もう一度口づける。
ふっくらと柔らかな輪郭をなぞり、誘うように開かれた唇のその先へと舌を滑らせた。
お互いの体温を確かめるように舌を絡ませ、息の続く限り無心で咥内を味わった。
「ん…ふぁ…っ…」
どちらの物とも区別のつかない唾液が智の顎を伝い、その唇の端からは吐息が零れた。
やんわりと胸を叩かれ、慌てて離した互いの唇を、僅かに差し込む月明かりに照らされて、妖しく光る細い銀の糸が繋いだ。
「ずっと一緒? 潤と…?」
甘さを含んだ声で名前を呼ばれ、それに応えるように血に濡れた手で智の頬を包むと、智の白い頬に仄かに赤みが刺し、小首を傾げて潤を見上げる顔には、微かな笑が浮かんだ。
「海、連れてってくれる? 蒸気機関車に乗って…行ける?」
潤はその問いに無言で頷いて見せる。
行けるさ…
行こう、二人で…
いつかの夢の中で描いたあの景色を見に…
「嬉しい…」
智の顔が、まるで満開の花が咲いたように綻び、頬に添えられた潤の手に自分の手を重ね、ゆっくりと瞼を閉じた。
潤は徐々に脱力していく智の身体を抱き上げ、薄い布団の上にそっと横たえると、その上に覆い被さった。