第3章 ー華ー
「ひっ…!」
不意に足首を捕まれ、潤はその場に尻もちをついた。
「…よく…も…………」
まるで地の底から湧き上がって来るような低く呻き、全身をどす黒い血で染めた悪魔が、身体をヒクヒクと痙攣させながら、カッと見開いた目で潤を見上げていた。
「う、うぁぁ…っ…!!!」
潤は喚きながら、ピクリとも動かなくなったその手を振りほどき、壁際まで後ずさった。
そして悪魔の血に汚れた両手で頭を抱え蹲った。
殺してしまった…
俺はとうとう旦那様を…
殺してしまったんだ…
後悔などしていない…全ては智を守るためにしたこと…、何度自分に言い聞かせても、得体の知れない恐怖が次から次へと襲ってきては、潤の身体を震わせた。
「…じゅ…ん…?」
か細く、今にも消え入りそうな智の声に、潤はゆっくりと膝に埋めた顔を上げた。
欲と血に染まった上体を起こした智の赤い瞳が揺れ、力なく伸ばした両手が縋るように潤を求める。
「あ、あぁ…、智…」
潤は這うようにして智の伸ばされた手を取り、赤く染まった身体を引き寄せた。
折れてしまうんではないかと思うほどの力で胸に抱きとめ、見上げる智の頬に手を添え、薄く開いた赤い唇に自分のそれをそっと触れさせた。