第3章 ー華ー
そこには蝋燭だけが灯された薄灯りの中、意識を躊躇うとさせながら、その白く、骨が浮き上がる程に瘦せこけた身体を、悪魔によって激しくも乱暴に揺さぶられる智の姿があった。
瞬間、身体中の血液が一気に湧き上がるのを潤は感じた。
躊躇う必要なんて……
ない……
潤は隙間から身体を滑り込ませ、そっと悪魔の背後に忍び寄った。
その時だった、智の虚ろな赤い瞳が潤の姿を捉え、力なく伸ばした手が、潤を求めて空を泳いだ。
潤は唇に震える人差し指を宛てると、手にした鉈を高く振り上げた。
只ならぬ気配を感じたのか、悪魔が振り返る。
「…っ、お前は………!」
膝に抱えた智の身体を板敷の床に放り出し、悪魔が背を向けて後ずさった。
「うあぁぁぁぁぁっ…!!!!!」
潤はその背中めがけて、高く振り上げた鉈を一息に振り下ろした。
「ひっ…、ぐっ……、あぁぁぁっ………!!」
地獄の底から湧き出るような雄叫びを上げ、悪魔はざっくりと開いた背中から、真っ赤な血飛沫を上げながらその場にのたうち回った。
ガランと音を立てて潤の手から鉈が滑り落ちた。
全身に血飛沫を浴びながら、空になった自分の両手を見つめた。
その手は未だかつてない程に震えていて、噛み合わない歯は、ガチガチと音を立てた。