第3章 ー華ー
湿り気を帯びた空気が身体に纏わり付く。
と、同時に噴き出る冷たい汗が額に滲み、それは頬を伝った。
僅かな物音も立てないよう、慎重に進める足取りはとても重く、まるで鉛玉でもついているかのようだった。
鉈を掴んだ手が震え、今にもその手から滑り落ちそうになるのを、両手で握って支えた。
フーフーと呼吸を繰り返しながら、座敷牢へと続く扉の前に差し掛かると、潤の足はそこでピタリと止まった。
濡れた髪が汗の滲む額にへばり付くのを、腕で乱暴に拭い、ガタガタと震える身体と激しく打ち付ける鼓動を少しでも落ち着かせようと、潤は大きく息を吸い込み、真っ暗な天井を仰いだ。
この期に及んで何を躊躇う?
一瞬でも気を抜けば、弱腰になる感情を振り払うように、潤は激しく頭を振って、意識を扉の向こうに集中させた。
「この化け物めっ! その猥らな身体を使って、何人もの男をたぶらかしおって…」
「いやあぁぁぁっ、父様…、許して…、あああっ…、許してぇ…」
「お前に父と呼ばれる筋合などはないわ…、汚らわしい…!」
扉を隔ても尚響く、無情とも言える悪魔の辛辣な言葉と、闇をも劈(つんざ)くような智の悲鳴。
じわじわと込み上げてくる怒りの感情を、何度も息を吐き出してはやり過ごし、座敷牢と蔵を隔てる扉に手をかけ、僅かに開いた隙間から中の様子を伺い見た。