第3章 ー華ー
「預かってもらえませんか?」
鳴り止まぬ雷鳴と、闇を裂く稲光に照らされた潤の顔が、青白く光る。
「どうして俺…に?」
腕の中でクンと鼻を鳴らした五助の頭を撫で、翔は潤を見つめた。
潤は視線を逸らすことなく、狂気に彩られた顔を少しだけ和らげた。
「あなたがあの人のことを…」
愛してるから…
潤の最後の言葉は、激しく振り付ける雨音に掻き消され、翔の耳には届かない。
「僕がどうしたって…?」
聞き返すが、潤はそれに応えることなく、瞼をそっと伏せて首を横に振った。
潤は翔が父親に逆らうことも出来ず、ただ言いなりになっていることを知っていた。
男たちが”用”を済ませ、蔵を出て行った後、翔はいつも男たちの欲に塗れた智の身体を清め、時には意識を無くした智の身体に縋り涙を流する姿を、潤は何度となく目にしていた。
ああ、この人もまた俺と同じ…
智を愛している…
秘めた想いを胸に抱き、苦しんでいる…
その苦しみは、兄弟が故に幾ばかりか…
翔が人知れず涙を流す度、潤の胸も同じように傷んだ。
「潤、お前何をする気だ」
翔の問いには応えず、潤は羽織っていた合羽を脱ぐと、それを翔のずぶ濡れの身体にかけた。
そして潤の腕を掴んだ翔の手を払い、「五助を頼みます」とだけ言って蔵の重い扉を開けた。
五助がクンクンと鳴き、腕の中で暴れるのを翔は必死で抑え込み、ゆっくりと扉が閉じられるのをただ立ち尽くし、茫然と見つめていた。