第3章 ー華ー
照はゴクリと音を立てて唾を飲み込むと、鋭く刺さる視線を正面に受けながらその口を開いた。
「でないと、お前も智坊ちゃんも不幸になるだけなんだよ。分かっておくれよ…。現に今だって坊ちゃんは旦那様に…」
そこまで言いかけて、照は悔しそうにグッと唇を噛み締めた。
「旦那様が、あの人に一体何を…?」
潤の手に握り込まれた照の細い手が、ギシギシと音を立てる。
「言えよ、あの人が旦那様に何されてんの?」
潤の低く感情を抑えた声が、窓に血付ける雨音に紛れて室内に響く。
照はグッと息を飲むと、悲しげに天井を見上げた。
「坊ちゃんは今頃旦那様に、折檻を受けてるよ…」
瞬間、稲光と共に遠くの方で地鳴りのような雷鳴が聞こえた。
「なんで…」
不気味な程に歪んだ端正な顔が、照の鼻先寸前まで寄り、空いた手が胸倉を掴んだ。
「そ、れは…、坊ちゃんの身体にあってはならない跡が…」
瞬間、潤の瞳の奥に、真っ赤な炎が立ち上るのを照は見た。
俺じゃない…
俺じゃない誰かがあの人に…?
しかもそれが原因で旦那様に折檻を…
潤は胸倉を掴んだ手で乱暴に照を突き飛ばすと、部屋中を駆け回る五助を捕まえた。
そしてクンクンと鼻を鳴らす五助を胸に抱き、一度は脱ぎ捨てた合羽をその身に纏った。