第3章 ー華ー
シンと静まり返った狭い室内に、激しく降る雨が明り取りの小さな窓に打ち付ける音だけが響いた。
「行っちゃいけない」
二人の間に流れる重苦しい空気を振り払うかのように、先に口を開いたのは照の方だった。
「蔵に行ってはいけない」
首を横に何度も振り、絞り出すように言う照を、潤は正面から見据えた。
そして、ククッと鼻で笑うと、その顔に笑を浮かべた。
「一体何の話だ? どうして俺が蔵に…」
「私が気づいてないとでも思ったのかい? 知ってるんだよ、お前が毎晩のように蔵に忍び込んでることを…」
思いもよらない照の言葉に、咄嗟に手を引こうと思った潤だったが、重ねられた照の、思った以上に強い手の力に引き留められてしまう。
「正直にお言い? 好いてるんだろ、あの方…智坊ちゃんのことを…」
図星を指され、激しく動揺した潤は思わず視線を逸らした。
蔵に忍び込んでいることも、智に密かに好意を寄せていることも、まさか照が気づいているとは、潤は微塵も思っていなかった。
「いつか…いつかお前も目を覚ますだろうと、私も今まで目を瞑ってきたけど、もうこれ以上は…」
照の、深い皺で縁取られた目から涙が一筋流れ、潤の手の甲にポツリと落ちた。