第2章 ー月ー
「あそばないの?」
小首を傾げ、仰ぎ見る赤い瞳に、吸い込まれそうになるのを必死で堪え、潤は落ちた襦袢を拾い上げた。
そして智の肩にかけてやると、乱れた銀糸の髪を指で掬った。
「俺はあの人たちとは違うよ?」
「…そう…なの?」
途端に寂しそうに瞼を伏せる智の隣に、潤は腰を下ろした。
「あんなの”遊び”なんかじゃないよ…」
潤が吐き出すように言い捨てると、元々小柄な身体を余計に小さくして、抱えた膝の間に顔を埋めた。
「ぼくはまだ”人間”にはなれないんだね…」
”人間”
智が独り言のように呟いたその一言が、潤の頭の中で木霊した。
「君は”人”じゃないの?」
「ぼくは”白い悪魔”なんだって…」
そう言って顔を上げた智の赤い瞳には、薄らと涙が浮かんでいた。
「白い悪魔? 何故そんな風に?」
今にも零れ落ちそうな涙を指で拭ってやり、その儚げに笑った顔を覗き込んだ。
「父様がね、言うんだ。ぼくは“白い悪魔”だって…。
真っ白なのに、目だけ赤くて気味の悪い化け物だって…」
化け物…
その言葉に潤は、ハッとする。
智の姿を初めて見た時…、粗暴な男達に組み敷かれ、淫靡なまでに腰をくねらせる智の姿を見た時、確かに潤もそう思った。
ても今は…
「こんなに綺麗なのに…。天使様のようなのに…」
潤は智の、触れたら折れてしまいそうな細い肩を抱き寄せた。
赤い瞳からとうとう零れ落ちた涙は、潤の肩を濡らした。