第2章 ー月ー
蔵での一件以来、潤の脳裏にはあの白い化物の、淫らにも妖艶な肢体が消えることはなかった。
あの化け物の正体を知りたい…
あの化け物に触れたい…
いつしか潤の心を、あの白い化け物が支配していた。
毎夜布団に潜っては、あの白い化け物の妖艶な姿を瞼の裏に浮かべては自慰に耽った。
仕事の合間ですら、何とか蔵に忍び込む方法はないかと、常に算段を繰り返す日々の中、気もそぞろになり、仕事もおろそかにしがちになった潤を、見るに見兼ね照は咎めた。
「最近のお前を見てると、まるで“心ここにあらず”の様子だが、一体どうしたって言うんだい?」
相変わらず冷たく、暖かさの欠片も感じられない声色だが、その言葉には心底潤を気にかける様子が伺えた。
「照さんは知ってるんだろ、あの蔵の秘密を…」
潤の言葉に、照の表情が一変する。
「俺、知ってんだ。あの蔵に何があるか…何を隠してるか…あれは…」
瞬間、潤の頬に衝撃と共に熱を持った痛みが走った。
「なっ…何すんだっ…!」
「いいかい、あそこには近づくんじゃない。あそこでお前が何を見たのか知らないけど、忘れるんだ。…いいね!」
それは初めて見る照の、恐ろしいまでに激昴した表情だった。
そのまま部屋を出て行く照の後ろ姿を見送りながら、潤は膝の上に作った握り拳をブルブルと震わせた。