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世界の果てのゴミ捨て場(HQ)

第10章 Love Me Tender(白布賢二郎)



「きみの匂いがね、同じなんだ」
おでこを机に乗せた状態で、そう言った桐谷の声は潤んでいた。「すぐ分かったよ。隣座ったとき。でも何回見ても違う人なんだもん」

「…ごめん」

「私こそごめん。きみが謝ることじゃないのに」

「桐谷さんもしかして、泣きそうなの?」

「そうみたい。ごめん、なんか、」
桐谷は鼻をスン、と鳴らして言葉を続けた。「いろいろ一気に思い出してしまった。泣きそう」


(俺も泣きたい)



一目惚れして好きになった人には、彼氏がいました。

よく分からないけど別れたそうです。



それだけのニュースで白布の心は千切れそうになる。好きな人が好きだった人。その影ほど振り切れないものはない。

桐谷の過去なんて、というかプライベートなことなんて何ひとつ白布は知らないけれど、抱えきれないほどの思いが彼女の小さな背中に積まれているのかもしれない、と思った。忘れようと蓋をして閉じこめていたのに、思い出しちゃったんだ。香水の匂いで全部。


「……俺もう行くよ」


離れてあげたほうが良いだろうと判断して立ち上がりかけた白布の腕を、桐谷は顔を伏せたまま引き留めた。


「……待って、ください」

蚊の鳴くような声に「は?なんで?」と白布は思わず聞いてしまう。


「俺が近くにいたらツラくない?オードトワレ?だっけ。いいよ、明日から大学には付けて来ないから」

「そんな心苦しくなること言わないでよ………」

「だってそうだろ。俺がいたら迷惑でしょ」

「そんなことない。むしろ、」
白布のシャツを桐谷は握ったままでいた。「もう少しだけ、そばにいてほしい」




(そばにいたって、俺にできることなんて何も無いだろ…違う人なんだから)



それでも、すっかり使い物にならなくなってしまった彼女を1人置いていく気にはなれない。白布は椅子に座り直して頬杖をついた。


空っぽだった講義室に、午後から使う学生たちがちらほらと入ってくる。思い思いの場所を確保してお弁当を広げている様子をしばらく眺めた。


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