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世界の果てのゴミ捨て場(HQ)

第10章 Love Me Tender(白布賢二郎)





学生食堂を越えた先にあるサークル棟を横切った時、ギターの音が白布の耳に届いてきた。釣られて足が止まりそうになる。弾かれた弦の響きがはっきりと聞こえる。アコースティックギターの音だった。

誰かが弾いているらしい。


音楽系のサークルは、大学に数多く存在していると聞く。春の新入学生向けに貼られた勧誘ポスターの残骸が、今も構内のあちこちの壁で確認できた。

大手の軽音楽が2つ。続いて吹奏楽。jazz研、合唱、アカペラ、マンドリン倶楽部、オーケストラ、フォークソング同好会、世界民族音楽研究会。他にも数多銀河の如く。存在すら表に上らないほどひっそりと活動しているグループまで含めたら、運動部の白布に全ての名前の把握は不可能だろう。


そんな理由で、サークル棟は昼夜を問わずいつもいろんなジャンルの楽器の音が喧嘩するように鳴っていて、建物全体が騒がしい不夜城みたいなものだった。ドラムの低音が刻むリズムも、アンプから流れるベースの音も、金管楽器の真っ直ぐな音も。

けれど、いま風に乗って聞こえてくる音はギター1本。ゆったりとしたテンポの曲だった。


誰かがどこかで弾いている。


屋外通路を歩きながら白布はサークル棟を振り返ってみる。見えるバルコニーには人の姿は確認できない。


(平和な音楽が演奏されているのは珍しいな……)


まだ午前中だからだろうか。音楽系の学生は主に夜行性であり、活動時間が遅いほど退廃的な傾向がある。きっと早起きの学生は奏でる曲も凪いでいるのだろう。そんな偏見で納得していると、ポケットのスマホが振動した。メッセージアプリの通知が、川西太一からメールが届いていると告げていた。


『白布、2限行ってる? 俺の分の出席カードも出してくれ』


(またかよ)


よろしく頼むわ、と右手を軽くあげる川西の姿が思い浮かんだ。白布と同じ大学に進学したのは本当に偶然だったが、選択する授業の多くまで被せて色々と便宜を図っているのは川西の希望があってのことだった。


『了解。間に合ったらな』

手短に返信する。こういうのは持ちつ持たれつってやつだ。授業の出席率は成績に大きく影響するので、助け合える相手は多い方が得になる。


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