第9章 まだだよ(澤村大地)
「何の種類の鳥なんだ?」
「あたしも知りたい」
「スズメか?」
「スズメって巣を作るの?」
「見たこと無いけど。巣がない鳥はいないんじゃないか?」
「誰にでも眠る場所があるんだね」
それからあたしたちは、街中にいるカラスやスズメたちは、夜になるとどこへ帰るんだろう、という話を真剣にする。今日投げたお賽銭の50円玉は、神社の人に回収されて、別の誰かに使われて、巡り巡ってまたおつりとしてあたしたちの手の平に乗せられるのか。缶ジュース1本のために使われるリンゴの量は何個か。そしてその潰されるはずの果実は、いまも世界のどこかで風に吹かれているのか。
恋愛のレの字も会話に出てこない。あたしの視線も、声のトーンも、いつもと何も変えないように制御する。
道宮ちゃんのことは、羨ましいとは思わない。
あれはあれでしんどいのだ。まだ届かない気持ちを空振りさせる勇気もパワーもあたしにはなくて、学校という海の底でじっとしてるだけのあたしのほうが、きっと苦しくないんだろう。
澤村はあたしと話しながら、じっと上を見ていた。鳥の巣を見ているのか、それとも別のことを考えているのかわからない澤村は、たぶん目の前の女子が恋愛対象外とか対象内とか、そういうことは考えてないんだろう。自分のたったひとりの相手を探す目を、閉じたまま過ごしてるとしか思えなかった。
でも、いつかその目が開かれた時、澤村の前に立ってるのが道宮ちゃんだったら──そうだよね、そっちのほうが簡単に想像できちゃう。
だからあたしが願っているのは、どうかその日がくるのは1日でも遠く、できれば、あたしの手の届かないような遙か未来でありますように。ってことだ。