第9章 まだだよ(澤村大地)
社殿の陰にベンチらしき石があったので、座ってぼんやりしていた。ピヨピヨという鳴き声がするので辺りを探すと、木材を組んで作られた屋根の隙間に、鳥の巣ができているのを見つけた。木の枝や枯れ草の塊の中にいるであろう、雛の姿までは見えない。
「終わったぞー」と言いながら、澤村がこちらにやってくる。あたしは座る位置をずらして「ここどうぞ」と、ひとりぶんのスペースを作ってあげた。
「神様に何てお願いしたの?」
「んー?」澤村は胸を張って遠くを見る。「『応援、よろしくお願いします!』」と威勢良く言った声は、壮行会みたいで面白かった。
「普通は、勝てますように、だと思うけど」
「神頼みって言葉はあんまり好きじゃなくてさ。応援してもらうだけで十分。勝つのも負けるのも、自分の実力だったと思いたいし……って、真面目すぎたか?」
「真面目真面目。良いことだと思う」
澤村の背後には、ひんやりした色の空が広がっていた。そこから涼しい風が吹いてくる。Tシャツ寒そうだな、とあたしは視線を向けた。目が合って、澤村は「あ」と何かに気付いてあたしから距離をとるように座り直した。
「なに?」
「いや、さっきまで走ってたから、汗かきまくってて」
申し訳なさそうに笑って、澤村は頬を掻いた。「近寄ると悪いかなー、と思って」
「あぁ」とあたしは頷いてから、立ち上がって後ずさりする。
「だからってそんな離れなくてもいいだろ」
「冗談です、冗談」
あたしは澤村の後ろに回って、鳥の巣があることを教えてあげる。指で示す先を見た澤村が、「ほんとだ」と独り言のように呟いた。