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世界の果てのゴミ捨て場(HQ)

第8章 放課後のHegira(木兎光太郎)



「焼肉くらい1人で行けって!」

木葉くんが私たちの脇をすり抜けていく。柔らかそうな髪質のおかげで明るい茶色の頭髪はそんなに乱れてないけれど、「えー、木葉どこいくの?」と拗ねる木兎くんに「便所!鏡!」と言い返して廊下へ消えた。後を追うように「いいじゃーんロースにカルビ食おうぜー」と木兎くんも出て行き、教室は潮が引くように穏やかな時間を取り戻した。台風一過の、と前につけてもいいくらいの平穏な空気だ。



「ロースにカルビかぁ」
昼食の続きを口に放り込みながら呟くと、えぇ…と友人が引いた。

「なぜ、お弁当を食べながら、別のご飯の話に釣られる?」

「最近食べてないなぁと思って。タン塩が好きだし。げ、ミニトマト入ってる」

お弁当のレタスの陰から嫌いな食べ物が出てきて、思わず私は顔をしかめた。


「琴葉は他人の会話に影響されすぎ。実際は言うほど食べたいわけじゃないでしょ」

「そうかしら。ごめん、トマトが」

「はいよ」

嫌いだと分かっているのに、お母さんはいつまでもお弁当に入れてくる。そういう日は友人に横流して食べてもらう。家では犬に。夫婦喧嘩は犬も食べないけれど、赤く熟れたミニトマトなら食べられるらしい。


「いつも放課後はファミレスとか、カフェとかで。まあ、いいんだけどさ。飽きてこない?趣向を変えるのも悪くないでしょ」

割と本気で言ったのだけれど、友人は無言でミニトマトを摘み上げた。返事がないことが返答みたいなものだった。私は少しだけうなだれる。


「…ダメか」

「制服に臭いがつくしなぁ。そもそも本心から肉を食べたいと思ってるのか?胸に手を当てて考えてみなさい」


手は当てなかったものの、ちょっとだけ考えてみる。焼肉という響き、連想される金網、熱気、脂の弾ける音は、平日の教室とは離れた世界で、新鮮に感じられた。電車の吊革とも、黒板とも違う。

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