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世界の果てのゴミ捨て場(HQ)

第8章 放課後のHegira(木兎光太郎)



てっきり木兎くん以外のバレー部はみんな廊下へ逃げてしまったと思っていたけれど、木葉くんは教室の隅にあるゴミ箱にペットボトルを捨てただけで元の位置に戻ってきていた。

「焼肉、なぁ焼肉?」欲求を主張する木兎くんに背を向けて「俺は焼肉じゃありません」と机の配置を直している。見かけによらず真面目。ここが3年3組の教室で、木葉くんの席がその机だから逃げる場所がない、という理由もあるんだろう。

交渉はしばらく続いた。

「今日行きたい」「俺は行かねー」
「焼肉」「行かない」
「焼き…」「行きません」


「だーってさ!」木兎くんは引き下がらなかった。「今日部活休みだろ?」

「休みの日まで、俺はお前と一緒にいたくない」

「なんで!?酷くね?」

「無理やり予定に付き合わせる奴のほうが酷いと思わねーか?」



木葉くんのほうが口が達者なんだろう。「でもさァ」と不満顔の木兎くんは、続く反論が思い浮かばなかったのか、むむむ、としかめ面をした後に木葉くんの髪の毛を両手でわしゃわしゃと掻き乱す反撃に出た。わァー!と悲鳴が上がる。「木兎!やめろテメェ!」



耐えきれなかったのか、友人が吹き出した。余りにも盛大だったので、「ちょっと!」と私は彼女以外には聞こえないように配慮して、小声で文句を言った。「結局、ジロジロ見てるじゃん」

「いやー、見てしまうよねぇ。男バレ、アホみたい」

「聞こえちゃうよ!」

「ダイジョーブ。木兎と同じクラスだったことあるけど、あいつ自分に都合の良いことしか聞こえないんだ」

髪の毛を耳にかけて、彼女は笑った。「イトコの子供を思い出しちゃったよ。構ってほしいからってワザと怒られることをする」

へー、と私は体勢を直して友人のほうを向く。「何歳なの?その子」

「2歳」友人がピースサインを作る。

「やばいね。2歳と同じか」

「やばい」

「私はね、飼ってる犬に似てると思った」

「あー犬ね」

散歩に行きたい、散歩。ねぇご飯ご飯、散歩、と尻尾を振って急かしてくる我が家の犬は、煩わしい時もあるけれど邪険に扱うこともできない。飼い主の視点でアレだけれども、木兎くんを放って置けずに相手をしてあげている木葉くんの気持ちがわかる。共感というよりも、同情に近い。


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