第6章 昼はひねもす夜は夜もすがら(宮侑)
「琴葉は、まーた同じの飲んでる」
後からやってきた侑が隣の椅子を引いた。テーブルの上の汚れが気になったのか、手で軽く払いのけてから「さぁ飯やで飯」と上機嫌でレジ袋に手を突っ込んでいる。
さっきまで小学校時代の記憶を思い出していたせいか、私の隣に並んだ17歳の侑を見て「デカくなったな」と率直に感心できた。肩幅とか、服のサイズとか、厚っぽいまぶたの下の黒目とか、全部デカい。人として正しく完成してるみたい。
「そればっか飲んで、飽きたりせーへんの?」
侑が私の手元をのぞき込む。私の飲んでいる紙パックの豆乳飲料のことを言っているのだ。紅茶味を意味する白いパッケージ。印字されている「毎日続ける大豆の健康」の文言の通り、私は日々これを摂取していた。
「いや、美味しいからさ」と正直に答える。
「つか、朝飯そんだけ?足りんの?」
「足りないかもしれんけど…来週健康診断あるやん」
「あるな」
「だからだよ」
「健康診断だから、何や?豆乳飲んで健康になろうと?」
「いや、少しでも体重を減らそうと思って」腹持ちの良い豆乳だけで我慢しようと、と私は口ごもった。侑は意図が掴めないのか、おにぎりの包装を指の先で破きながら「は?」と聞き返してきた。
「意味が分からん。体重測定に向けて痩せようと?」
「そう、思っておりまして」
「あのな琴葉くん、体重によってボクシングみたいに階級が決まったりはしないで」
「そんなん分かっとるし」
「じゃあなんで痩せようとすんねん。体重なんて家で測れるのに。わざわざ健康診断に照準合わせる意味が分からん」
「私だって知らんけど、なんか健康診断の結果が1年間の公式プロフィールになるような気がしてて」
言い訳をしながらも、公式プロフィールって一体なんやねんと自分でも思ってしまう。確かに測定の日だけ体重の数値を低くしても、すぐに元に戻るのであれば意味はない。でもなぜか、健康診断があるから痩せなければ、と思うのだ。
こんなアホな会話をして他のお客に聞かれているんじゃないかとふと心配になる。周りの見渡すけれど近くには音楽を聞いているだけの男の人がいるくらいで、誰も私たちに目を向けていなかった。ほっと小さく息を吐く。