第6章 昼はひねもす夜は夜もすがら(宮侑)
「早いなぁ、10年やって」経済のことは詳しくないが、コンビニの店舗にしてはよく続いてるほうではないだろうか。特に意味を込めたわけではなかったけれど、紙パックの飲み物が並ぶ棚に手を伸ばしながら、私はため息をついた。
小学校低学年の頃まで、ここにコンビニは影も形も存在していなくて、代わりに小さな個人商店が建っていた。こじんまりした空間にタバコやお酒や調味料、お菓子に文房具と雑多な世界が広がっていた。学校から家へ帰る時に必ず通る道だったから、治と侑と私でよく駄菓子を買っては当たりが出たの出ないだのと言って大騒ぎした。その頃の私たちは当たりくじ付きの駄菓子が大好きだったのだ。大当たりした記憶がないくらい殆どがはずれだったのは如何なものかと思うけど、高校生になった今、ソシャゲのガチャに全く入れ込まないのは幼い頃に色々痛い学びをしたおかげだと思っている。そういった意味では感謝したい。
商店の奥の、文房具が置かれた棚の横のカウンターには物静かなおばあちゃんがいつもいて、お会計をしてくれた。今でもあの懐かしい匂いをふと思い出す。結構な歳だったのか、それとも不況の煽りを受けたのか、老後は自営業をやめて遊びたくなったのか理由は定かではないけれど、ある時から店のシャッターは降りたままになり、いつのまにか空き地になり、忘れた頃に業者による工事が入った。一週間も経たないうちに真っ白で無機質な四角い建物が現れた時、私たちは、次に何のお店がここにオープンするのか当てようとした。
「飯屋だとええな」黒いランドセルを背負った治はそう言っていた。別になんでもええんやけど、とぼんやりとした表情で言う。
「ドーナツ屋かな」と私が返すと、すかさず「こんなところにドーナツ屋開いてどうすんねん」と侑が突っ込みを入れた。「コンビニやろ普通」
「侑、夢ないなァ」
「むしろ夢いっぱいやろ。飯選び放題やで」
選び放題やでー。昔の侑を思い出して、小さな声で真似てみた。10周年を迎えるコンビニのイートインコーナーで、私はなんだか可笑しくなって、ふふ、と肩を揺らした。レジ袋から、買ったばかりの紙パックを取り出してストローをさす。