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世界の果てのゴミ捨て場(HQ)

第4章 縦に線(菅原孝支)



 
 秋が深まるに連れ、日が短くなった。教室でどうしてもわからない模試の過去問にかじりついているうちに、すっかり夜になってしまった日のことだ。
 
 
 帰り道の交差点に差し掛かる。先に信号待ちをしている人がいた。暗くて最初はわからなかったけど、轟音を上げて走り去るトラックのヘッドライトがその人の姿を照らした。菅原だ、と気が付いて、私は一歩後ろに下がった。話しかける勇気はなかった。
 
 横断歩道を渡った先にある公園からは、子供達の声は聞こえない。遊具が闇に紛れて見えないくらい、夜が辺りに広がっていた。
 
 
 両手でカバンを持ち、私は息をひそめた。菅原の背中を見ていた。いつも背中ばかりみている気がする。彼は部活帰りのようで、音楽を聴いていた。その耳から制服を繋ぐ、ゆったりとした線を描くイヤホンのコードの白が闇に浮かんで、特別に大切に見えてくる。
 
 何を聴いているんだろう。と私は思う。菅原は何の音楽が好きなのか知らなかった。毎日誰に心を注いで、何を夢みて息しているのか。  何も知らない。
 
 
 薄くなった夏の大三角形が西の空へ降りてきていた。小さく交わされる人の声が聞こえて振り向くと、私のすぐ後ろを、社会人らしきカップルが通り過ぎていくところだった。寄り添うように並んで、手を繋いでいて、 思わず見とれた。
 
 男の人の大きな手が、女の人のしなやかな手を包み込むように指を絡ませている。緩やかなのに、簡単にはほどけなさそうだった。いいなぁ、と目で追う。ふと前を向くと、菅原も同じように遠ざかる二人を見ていた。私に気が付き、あ、とバツの悪そうな顔をした。 
 
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