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世界の果てのゴミ捨て場(HQ)

第4章 縦に線(菅原孝支)



 
  果歩ちゃんと緩い会話を交わしていたら、続く廊下の前方に同じクラスの菅原を見つけた。窓の下枠に肘をついて、ぼんやりと外を見下ろして佇んでいる。
 
 その姿に気づいた途端、私は急に前髪を触ったり、スカートの裾が気になったりする。果歩ちゃんにバレないように菅原から目を逸らそうとするけれど、どうしてもできないでいた。周りにどれだけ人がいようと、彼だけ特別に見えてしまうのだ。
 
 菅原は、衣替えしたばかりの黒い学ランで、まくった袖の下にYシャツの白が溜まっていた。あぁ、やっぱりかっこいい、と悔しくなるくらいに思う。
 
 こっちを見てくれないかな、と。
 見てくれるだけでいい。
 目を合わせたい。近づきたいと思うのに、
 いざその時になるとなんだか耐えられずに俯いてしまう自分がいる。
 
 
 私たちに気づく様子もない彼の後ろを、ドキドキしながら通り抜ける。プリントの束を胸に押し付ける。
 このすれ違う一瞬だけ、大事にさせてほしい、と願った。
 
 
「それにしても七海、何の用事なんやろうね。最近よくお昼にいなくなるけど」と話す果歩ちゃんの声に、菅原が反応した。体を起こしてこちらを向いたのが視界の端でわかった。間に立っていた私は、二人の視線が噛み合うのを空気で感じた。
 
 
「あれ、菅原くん」果歩ちゃんが今初めて気がついた様子で立ち止まる。
 
「ごめん、いま七海って聞こえて」菅原が言う。それだけで心臓が痛くなる。
 
「何なん菅原くん、七海がどこいるか知っとんの?」
 
「知ってる。って言うか、」
 彼は面白いものを見たような顔で窓の外を指差した。「いるよ、あそこに」
 
「この下?」
 
 近づいて覗き込む。真下にある中庭の芝生で、七海が男子とお弁当を広げていた。知らない男子だ。
 
 
「…誰」思わず口にする。
 
「彼氏……なんかな?」果歩ちゃんも自信がないのか、神妙な声だ。
 
「いやー、付き合ってない奴とはこうやって飯食わないだろ」菅原の口調だけが妙に楽しそうだった。
 
 

 
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