第3章 you are in my life (夜久衛輔)
「みんなは?」
「帰ったよ」
「夜久は帰らなかったの」
「琴葉が起きるのを待ってた。今日の俺は鍵当番だからな」
どうやら私が眠ってしまい、勝手に全員で帰ることが出来なくなってしまったらしい。ドアを開けて出て行くなら、防犯のために誰かが内側から鍵をかけなければならない。だから夜久が残ることにしたのだそうだ。
「起こしてくれてよかったのに」
夜久は目を細めただけで、何も言わなかった。
枕元に置いた目覚まし時計は夜を告げていた。平日でもとっくに部活が終わっている時間だ。
「体調はどうだ?」
「うん、寝たら少し楽になったかも」
「声が変だぞ、大丈夫か」
「痛いんだよ、朝からずっと」
「可哀相に。まぁでも琴葉も起きたし、宿題も終わったし、俺も帰るよ」
「え」
冗談かと思ったが、夜久はスタンドの電気を消して、立ち上がりかけた。私は慌てて身体を伸ばして、彼の荷物を両手で掴んだ。
「待って、行かないで」
「言うと思った」
「今日、親いないの」
「それは元気な時に言うセリフだ」
無視して持ち上げられた荷物を、私は力の入らない腕で引っ張った。
「まだ会えたばかりだよ、バイバイするには勿体無い」
「俺は1時間前からここにいて、お前が起きてなかっただけだろ」
夜久は苦い顔をして、じゃれ合うように私と攻防を繰り広げた。彼の弱点は優しいところだ。やがて観念した様子で床にあぐらをかくと、きっぱりと言った。
「10分経ったら帰るからな」
そんな短い時間で、何ができると言うのだろう。
困り果てて、私は夜久の顔を見つめた。暗くなった部屋の中で、しばらく沈黙が流れた。何を話せば良いか、急にわからなくなる。
「今日、私がいなくて寂しかった?」
「え?」
きょとんとした顔をされる。わかってはいたけれど、部活に夢中になっている間は、私のことなどあまり気にかからないのだろう。