第3章 you are in my life (夜久衛輔)
母の実家ーーー祖母の家で、七夕の短冊を作ったことがある。旧暦に合わせてお盆が行われる地域のため、一般的な七夕の時期とはズレた、8月の夜のことだった。
古い暦の上での7月7日。一週間後の満月の日が、祖母の住む地域でのお盆になる。ご先祖様が無事に帰ってくるための目印に、竹飾りを高いところへと飾るのが習わしだった。
私は畳の上に座って、熱心に、裏表で異なる色をもつ画用紙にハサミを入れて短冊を量産させた。竹の枝に吊すと風が吹き、くるくると鮮やかに色を変える。
祖母は優しい人だった。盆の翌日が過ぎるまで海に行ってはいけないと、墓参り用の提灯を持つ私に静かに教えてくれた。
成仏していない霊達も、お盆になると帰って来る。誰かが待ってくれてるんじゃないかと思って。そして迎えられない寂しさの余り、子供を海へ引きずり込んで一緒に還ろうとするのだと。
海はひとりだ、と祖母は言った。ひとりは寂しいものだ、と。
道のあちこちで、さらさらと竹飾りが揺れていた。叔父や叔母や従兄弟たちの騒ぐ声を背中に受ける。繋いだ祖母の右手は皺だらけで柔らかく、あたたかさがあった。
外の風が強いのか、雨どいのカタカタ揺れる音で目が覚めた。耳に届く小ささは現実味があり、夢をみていた、とぼんやり気づいて瞼を開ける。
部屋の中は半分だけ暗くなっていた。眠る前に見た光景では、勉強机の椅子には黒尾が座っていた。今は煌々としたスタンドの灯りに照らされ、一回り小さなシルエットが机に向かっている。
あぁ、来てくれたのか。
小さく息を吐いたら、気配に気付いたのか、夜久が振り返った。
椅子を半回転させ、机のへりに肩肘をのせる形で、ベッドに寝ている私を見下ろす。
「おはよう」
「今日は会えないのかと思ってた」
「あれ、後から行くって伝えたんだけどな。黒尾に」
そんなこと、一言も言っていなかった。あいつめ。文句を言ってやろうと思ったが、部屋には私と夜久を残して誰もいなくなっていた。微かにブーンと鳴っている電化製品の音が、部屋の静けさを強調させた。