第3章 you are in my life (夜久衛輔)
リビングにみんなを通すと、黒尾は真ん中で立ち止まりキョロキョロと中を見渡した。
「親御さんは?まだ仕事か?」
言われてから、仮にも女子の家に男子が3人押し掛けている状況に気が付いた。親の身になってみればいかがなものかと思うだろう。黒尾も案外、気を遣うのか。
「さっき仕事に行ったよ。今日は準夜勤なんだ。帰ってくるのは夜中になる」
「え、そうなのか」
落胆したような顔をされる。どうしたのかと思っていたら、研磨くんがこっそり教えてくれた。
「クロはね、琴葉さんの母親が美人だって聞いたから、お見舞いの代理を引き受けたんだ」
「ふーん……」
浅はかな理由に思えた。となると、福永くんや研磨くんは付き添いか。
読みとったかのように咳払いを一つして、黒尾が私に向き直った。
「自分で言うのもアレだが、玄関の外を覗いて、俺が一人だけで立ってたらお前、ドア開けるか?」
「そういうことか」
「そういうことだ」
後輩を囮に使うとは。心の中で毒づく私の後ろでは、研磨くんがゲームを始めている。
お見舞いの体裁を守ってほしい、と要望を出し、私の部屋に移動した。本当は熱で頭がくらくらしていた。私はベッドに入り、周りで3人が思い思いにくつろぎながら、とりとめの無い世間話をするのを聞いていた。今日あった練習のこと、体育館裏に居ついた野良猫のこと、野良猫に餌をあげる猫又監督のこと。
日が沈み、部屋が翳り始めた頃、研磨くんがゲームの電源を落として立ち上がった。帰るの?と聞くと、うん、と答える。従うように、福永くんも荷物をもった。私は、急に寂しくなった。みんなが帰ったあと、ひとりになった沈黙に耐えられる気がしなかった。
黒尾の前で癪だったが、病人なので弱音を吐いて引き止めた。もうちょっとだけいてほしい。研磨くんには分かりやすい迷惑顔をされ、黒尾からは子守唄の提案をされた。私は子守唄を却下し、またぽつぽつとした会話を聞いた。安心したせいなのか、途中で飲んだ風邪薬のせいなのか、すぐにうとうとし始めた。