第3章 you are in my life (夜久衛輔)
「あいつ、当番だってことすっかり忘れてたみたいでさ。琴葉が寂しがってるから、誰か行ってやってくれないかと頼まれて、代わりを引き受けたのが この心優しい 俺、ってわけだ」
胡散臭い。
「代わるなら、鍵当番の方を代わってあげたら良かったのに」そうしたら、夜久はお見舞いに来れたのに。
「まあまあ、3人も来たんだから文句言うなよ」
黒尾は私をなだめるけれど、面白がっているのが筒抜けだ。締め出そうにも横から福永くんがコンビニの袋を差し出してくる。元気が出るようにとの手土産のようだ。ずるい、と思う。猫目でじっと見つめてくる福永くんに、「さっさと帰れ」なんて言える人間はいるのだろうか。
「どうもありがとう、みなさん」
ぼそぼそとお礼を言う。黒尾はニコニコして立っている。
「ちょっとお邪魔していいか?外が寒いんだよ、今日風が強くてさ」
ほらきた。と思ったけれど、何がきたのか自分でもよくわからない。
マンションの廊下の窓から、葉の塊を揺らす木々が見えていた。この中を歩いてくるのは寒かっただろう。でも、部屋に招いたら、私の風邪がうつるのではないだろうか。
逡巡した。結局、人恋しさが勝った。
「いいよ。まぁ、ゆっくりしてって」
ドアを大きく開きなおすと、「あ、ちなみにー」と黒尾が指をさしてきた。「その差し入れの中身は、全部、夜久が 琴葉のために 選びました」
「本当!?」
飛び付くように中を見る。牛乳プリン、メロン味のアイスクリーム、焼きそばパンに、冷凍のたこ焼き。私の好物ばかり。なんて優しさ!
堪えきれずに袋ごと抱きしめる私の横で、靴を脱ぎにかかった研磨くんが「分かりやすいなぁ」とこれ見よがしにつぶやいた。