第3章 you are in my life (夜久衛輔)
インターホンが鳴ったのは夕方だった。その頃には、私の部屋も随分片付き、ぬいぐるみやクッションも数滴の香水によって良い匂いを纏い、私自身もシャワーを浴びてふかふかした可愛い部屋着に替えていた。熱と咳は悪化したけど、元からひどい風邪だったと思おう。
お見舞いされる側って、一体なにしたらいいんだろう…でも会いにきてくれるのは嬉しいなぁ。
ふわふわとした心地で、設置されているテレビドアホンから外を確認する。「おや?」と声がでた。カメラに映った景色は、廊下の窓から差し込む夕陽を背に受けて立っている、研磨くんと福永くんのふたりだった。
予想外のふたりだ。なぜ? よりも、 可愛い という感情が先に立ってしまった。マネージャー見習いを始めてからというもの、後輩という存在に日々身悶えする私である。事情はよくわからないけど、一緒に来てくれたのだろう。嬉しくなって、ドアの鍵を外した。
「えーと、いらっしゃい」
扉を少し開けた直後、高い位置から大きな手がぬっと出て来た。どこに隠れていたのか、黒尾鉄朗がドアの縁をつかんでいた。驚いて閉めようとしたが、ビクとも動かせない。
「どうも 救援物資、持ってきました」
にこやかな顔の黒尾に挨拶され、私は少し固まる。夜久がいないのだ。福永くんと、研磨くんと、黒尾の三人。扉の向こうには三人しかいなかった。
思ってた展開と違う。ドアノブを両手でつかんだままの私に、黒尾は目線だけ落とした。
「思ってた展開と違うって顔してるな」
「夜久がいない」
「まだ練習してる。あいつ、今日鍵当番だから」
鍵当番、というのは、最後に部室の鍵を閉める当番のことである。全員が帰るまで待たねばならず、部員持ち回りで担当している。
今日はリエーフと山本が残って自主練をしているのだそうだ。あの二人は体育館が使えるギリギリの時間まで、ずーーーーっとボールを追いかけ回すし、夜久もそれに付き合ってしまうのが常だった。