第3章 you are in my life (夜久衛輔)
上品そうな白い砂浜と、波打ち際の青さを見ていると、昔遊びに行って触れた潮の香りを思い出す。私は毎晩、眠る前にベッドの中からこの海の写真を見る。すべての生物は海から生まれ、そして海へと還っていくのだ。暗い部屋で幽かに見える、空との境界線を眺めているうち、いつの間にか夢の中で波の音を聞くのだった。
スマホが鳴った。知らないうちに眠っていたようで、おでこに冷えピタが貼られていた。寝転んだまま手を伸ばして画面を見ると、夜久から返信が来ていた。
『大丈夫か?』
の後に、ムンクの叫びみたいなスタンプ。それだけで嬉しかったし、少し笑えた。
良かった。私、心配してもらえてる。
高い守備力を誇る音駒の中で、夜久はいつだって底の土台になっている。賑やかなメンバーが出入りしたって、彼が重心を担う限り、チームは安定する。とはいえ今日くらいは、両腕を合わせてレシーブを上げる瞬間に、その頭の片隅に私を置いてほしいと思った。
本日のノルマ達成、という気分で、私はまたベッドに沈む。もうすぐにでも最初のミーティングが始まる時刻、次に連絡が取れるとしたらお昼休憩の頃だろう。
熱のせいか身体は重く、心細さを感じたが、海を思うとなんてことない。海はひとりだ。ひとりはさみしく、慰めあえる。