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世界の果てのゴミ捨て場(HQ)

第3章 you are in my life (夜久衛輔)



 
 
  夜久に誘われるままバレー部のマネージャーとしてお手伝いを始めてから、半年ほどが経っていた。時間に余裕のある女子が欲しい、という理由だけで大歓迎されたものの、聞けば元々人手には困っていなかったそうである。仕事をしようにも部員がどんどん手伝ってくれるので、やるべきことは多くない。
 
 どうも私は女子マネージャーという肩書きをもったマスコットに近い存在らしい。急な体調不良で穴をあけても、罪悪感は薄いというわけだ。
 
 
 スマホを枕元に置き、時計を見る。今日の練習が始まるまで、あと1時間ほど。いつも通りなら、夜久はそろそろ自宅を出る頃。朝ご飯はなにを食べただろうか。ご飯かな、パンかな、と考える。手を合わせて、いただきますと言う彼の姿が思い浮かんだ。
 
 
 
 日曜の部活を休む、ということは、今日は夜久の顔が見れないことになる。閉じたカーテンの向こうはほんのりと白み、今日の天気は曇りらしい。寂しさが胸を通り抜けていく。風邪のせいで、頭も痛い。でもそれよりも、心配してもらえる、と期待する幸せな気持ちがいちばんに勝っていた。私にとっては、気遣ってもらうことも、新鮮で幸せな恋の一部だった。
 
 
 
 横になっていようと布団に潜り込んだ時、ドア越しに母親が声をかけてきた。私が寝坊したと思ったのだろう。熱があることを伝える自分の声が枯れていた。
 
  「あら、体調悪いの?」部屋に入って来た母親は、出かける日も出かけない日もメイクをしている。病院で看護師をしている母である。私の体温と症状を把握し、「疲れただけかもね」とのんびりとした診察を下した。「今日は一日、寝てなさい」
 
 
「そのつもりでした」 腫れている喉が熱かった。
 
「今日の晩ご飯、準備しちゃったのよねぇ」
 
「できる限り食べるよ」
 
「ちょっと待ってて、冷えピタ取ってくるから」
 
 
 母は去り際に、ドア横の壁に大きく飾られている写真に目を留め、まるで骨董品を鑑定するように「あぁ、これはいい海ですねぇ」と言って部屋を出て行った。
 
 
 自分があげたプレゼントだろうに、と私は呆れる。幼い頃を奄美大島で過ごした母は、私の13歳の誕生日に、『寂しいときは、海を眺めるものなのよ』と、彼女の故郷の海の写真を額縁の中に収めてくれたのだ。
 
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