第3章 you are in my life (夜久衛輔)
私の恋のはじまりは、高校1年の夏にさかのぼる。休みの期間中に開放される学校の図書室へ、毎日通っていた頃のことだ。冷房の効いた図書室は人が少なく、古本の静かな匂いに満ちていた。自習エリアの隅に置かれた大きな振り子時計が、カコ、カコと秒針を鳴らしているある日、帰り際のドアの近くに、半袖の白いシャツがよく似合う、短髪の男の子が立っていた。それが夜久で、そこがはじまり。けれど、彼にしてみれば、私たちの出会いはすこし違うものになる。
4月。入学式の真っ最中、校長先生の長いお話を聞いている時だった。体育館は白い光に照らされ、新しい制服の袖は少しだけ長い。彼が手持ち無沙汰にふと視線を動かすと、同じように何気なく横を向いた女の子と目が合った。知り合いでもないし、お互いの場所は離れていたけれど、びびびびーと電気が走ったのだそうだ。周りの音が遠のいて、時間は止まったかのようで。のちに、その女の子は桐谷琴葉という名前で、夏休みには毎日図書室で勉強していることを知る。
出発点は違ったけれど、すでに私たちの物語はひとつに合わさっている。一方通行の想いではなく、ちゃんと、矢印が、お互いに向き合っているタイプの恋愛だ。特に私は夢中になりやすいようで、付き合い始めも3年生に進級した今も、1日ほとんどの頭の中は恋で支配されていた。朝に家を出るときも、そよ風に吹かれるときも、私は好きな人のことを考えていて、幸せで、苦しかった。苦しすぎて、風邪を引いていることに気づくのが遅れたほどだ。
日曜日の朝、体温計が示す37.8℃の表示を見たとき、不思議な喜びに包まれた。すぐに写真を撮り、夜久に送った。
『熱が出たから、今日は部活休むね。ごめんなさい』
謝っておきながらも、私が休んだことで大きな支障が出るとは思えなかった。正直なところはね。