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世界の果てのゴミ捨て場(HQ)

第1章 恋とウイルス(縁下力)


 

 
 教室の中へ踏み込まないわたしを、気後れしていると勘違いしたのか、坊主の先輩は代わりに縁下先輩を呼んでくれた。大声で名前を呼ばれ、振り返り、ドア付近にいるわたしたちを見た縁下先輩は、不意を突かれた表情をして、動揺のあまり手から教科書を落下させた。先輩にとって、坊主の先輩とわたしは意外な組み合わせだったらしい。
 
 
「縁下先輩」
 
 わたしは先輩の前まで歩き、返却された数学の解答用紙を広げてみせた。「見てください、これを」
 
 へえー、と感嘆の声を上げた先輩は、わたしの顔を覗き込む。「桐谷さん、しばらく見ない間に、大人っぽくなった?」
 
「見る場所はそこじゃないです」
 
「ごめん、冗談」
 
「冗談なんですか」
 
 
 壊滅的な点数を見て、てっきり呆れられるか馬鹿にされるかと思っていたのに、先輩はふかふかのお布団にくるまっているかのように楽しそうな様子だった。良いことでもあったのだろうか。
 
 
「最近見かけないから、どうしたんだろうと思ってたんだ」
 
 目を細めて、それから気がついたように、「田中!」とわたしの背後にいた人物に向けて、顎を動かした。そそくさと居なくなる坊主の先輩は、田中さんという名前なのだった。
 
 
 
 
 部活が休みだという縁下先輩と、わたしは一緒に昇降口を出た。グラウンドでサッカー部が練習している声を聞きながら、校門をくぐる。夕陽が作るふたつの影が、地面へと長く伸びていた。
 
 
 
「短期間では、人は天才になれませんでした」
 
「いいんじゃない。テストはいくらでも来るし、次は俺も教えるよ」
 
「でも、宣言が守れず・・・」
 
「宣言? あぁ、そんな話もあったね、なんかお願いがあるんだっけ?」
 
「もう叶わぬ願いとなりました」
 
「内容は?」
 
「内緒です」
 
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