第1章 恋とウイルス(縁下力)
努力が実を結ばないのは、つらいことである。
自分がここまで出来が悪いとは思わなかった。
縁下先輩に幻滅されるだろうか。
どんな顔で会えば良いのかわからず、先輩と遭遇するのはしばらく避けた。一方的に頑張ります宣言をし、虚勢を張った上でこの敗退に甘んじたのだ。
校舎の中で遭遇しないよう動くコツはすでに4月のうちに身につけていたので、難しいことはない。廊下の遠くから姿が見えれば、さっと隠れる。逃げる。先輩がわたしに気がつかず通り過ぎた後、ふと何か感じ取った様子で振り返る時でさえ、見つからないように息を潜めることもできる。問題は、似たような背格好をした赤の他人が多くて紛らわしいことだった。先輩がもっと特徴的なヴィジュアルだったら、と変なところを恨んだりもした。唯一避けられない、不定期に開催される委員会の集まりの日は、仮病を使い保健室に匿ってもらった。
まるで仲良くなる前の、最初の頃に戻ったようだった。縁下先輩との距離感がリセットされたところで、不自由するところはない。しかし、一週間もしたら先輩の優しいオーラが恋しくなった。いちごの旬も終わりかという時期に、わたしはベッドの上で大の字になり、ふと、先輩の名前を笑ってしまった日のことをを思い出す。
わたしが失礼な言動をした時の、あの呆れたような、困ったような、人を哀れむような表情。あの後も何度か向けられて、どんどんクセになってきていた。
もしかしたら、と考えを改めて、成績表を鞄から取り出す。
わたしのこの悲惨な点数を見て、また蔑んだ顔をしてくれるのではないだろうか。馬鹿だなぁ、と言ってくれるのではないだろうか。だったら、正直に見せた方が、オイシイのではないだろうか。結果オーライなのではないか。わたしはベッドから起き上がる。もはや自己暗示の域だった。