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世界の果てのゴミ捨て場(HQ)

第1章 恋とウイルス(縁下力)




 やるからには、すごいね、と言ってもらいたい。
 
 テストまでの十数日、見たいテレビを我慢し、寝る時間を後ろ倒しにして、単語の暗記に時間を費やした。学校の近くにできたケーキ屋さんに、放課後 食べにいこうという友人の誘いも、休日の映画の予定も断り、バイトのシフトも調整した。分からない問題があれば数少ない知り合いに教えを請い、親しくもない頭の良いクラスメイトにもお世話になった。彼らは「教科書に書いてある通りだ」と謎の解説を展開し、わたしの演習問題の解答を見て静かに首を横に振る。それでも、つらい時は艶々のいちごを想像して、わたしは机に向かった。
 
 
 
 縁下先輩は相変わらず気にかけてくれた。
 
「どう?調子は」
 
「まあ見ててください」
 
 
 短いやり取りをしてすれ違う。本当は見せられるほどの成果が上げられていなかったのだが、心のどこかでは、本番に強いタイプだし、とか、部分点がもらえれば、とかいう妙な自信に満ちていた。作戦としては成功だったと言える。この頃のわたしは、高校受験よりも熱心に取り組んでいたかもしれない。当日のテストも、試験時間は寝なかったし、空欄も全て埋めた。自分の中では褒めていいレベルだ。
 
 だから数学のテストが返却されたとき、その点数の低さはにわかには信じられなかった。

 悪い夢でも見ているのではないのか、と疑ったほどだ。悔しさよりも、不思議でならない。なぜあんなに自信満々に書いた証明が×なのだろうかと、家に帰って、相当に落ち込んだ。わたしが勉強机に向かっている時点でどうしたのかと心配していた母親は、赤点にショックを受けているわたしを見て余計に不安を募らせた。学校から変なプレッシャーをかけられているのではと案じていたほどだが、わたしがいちごを賭けてテスト勉強をしていたのだと説明すると、てのひらを返すように軽んじられた。


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