ドラキュラさまの好きなモノ〜主人とメイドの恋煩い〜
第13章 初めての夜は
ハートランド邸
豪華に彩られたハートランドの部屋。
床にはバラの花びらが撒かれ、
シルクのシーツはろうそくの灯りで上品な光沢を放っていた。
「……」
そんな贅沢な空間には似つかわしくないほど、
ハートランドはベッドの側に崩れるように座っていた。
片腕はベッドに乗せ、その上に自分の顔を埋めている。
「いつまでそうやってる気?」
「!!」
いきなり部屋に響いた声に、ハートランドは顔を上げた。
「リヒテン…シュタインくん…」
ハートランドは泣き腫らした虚ろな目で呟いた。
「なんて顔なの。イケメンが台無しだよ。」
彼の嘲笑を含んだ声音に、ハートランドは眉間にシワを寄せる。
「なんの用だ…」
「おや、お言葉だね。」
少しおどけて見せるも、ハートランドの苛立ちに油を注いだだけだった。
「人の寝室に不法侵入をしておいて、何が言いたい!」
ハートランドはベッドの縁を拳で叩いた。
頑丈な木で作られたそれは、
まるでウェハースのように潰されて粉々になった。
「…力があり余っているようだね…
彼女のお陰で…」
視線を移すと、ベッドの上には半裸の女性が横たわっていた。
長く美しい肢体が、スカートやブラウスから惜しげも無く露わにされている。
艶かしい光景だが、彼女の肌の色が紙のように真っ白で、
全く色気を感じない。
さながらその様子はマネキンのようだった。
「…見るな!!」
ハートランドはシーツを捲り上げると、
カーディナルの身体を覆った。
「…死んじゃったの?」
「っ!!」
ハートランドの肩がビクッと揺れた。
そして、紫水晶の瞳を睨みつけた。
「…息があるなら診せて。」
そんな視線を軽く受け流し、
とても低く静かな声で囁いた。
「!!」
ハートランドの顔が歪んだ。
「たすけて…くれ…っ」
腕を掴み懇願してくるハートランドの顔を、
何かを見定めるようにじっと見つめる。
「そのつもり」
紫水晶の瞳が穏やかに笑った。