ドラキュラさまの好きなモノ〜主人とメイドの恋煩い〜
第10章 愛の形
「マキアのおかげで上手くいったね。」
リヒ様は窓の外を眺めた。
「え?」
私はリヒ様の美しい横顔を見つめる。
「彼のカーディナルへの歪んだ愛情。
その愛情を維持するために犠牲になっていたドール。
その打開策として矛先が向いた君。
君と私を取り込むために利用しようとした派閥の力。
全てが馬鹿げている程、悪循環で回っていたのさ。」
リヒ様の声は抑揚がない。
「テディとビスクは、これで少しは解放されるだろう。」
“ストレス”がなくなって、食の頻度が少なくなるということか。
リヒ様が、二人の事を気にかけて下さっていた事が嬉しかった。
「彼の事どう思った?」
リヒ様は静かに聞いた。
「始めはとても…その、王子様のような人だなと思いました。」
私は素直に言葉にした。
「でもすぐに、それは作り物のようだと感じました。
そして笑顔や優しさに歪んだ怖さを感じました。」
私は、ドールの二人を紹介した時の彼を思い出し、眉間にシワを寄せた。
「でもカーディナルさんへの純粋すぎる愛情がそうさせたのだと思って、
その、失礼な表現ですが、なんだか子供のような人だなって思ってしまいました。」
私の言葉をリヒ様は頷いて聞いてくれた。
「そうだねマキア。
正直に話してくれてありがとう。」
リヒ様は遠くを眺めるような目でつぶやいた。
「君の言う通り、すべてはそんなものなんだよ。
彼自身も、元は悪い奴ではないと思うよ。
彼だけではなく、ディクシー派の者もネル派の者もね。」
あまり政治的な話をしないリヒ様が、
何かを吐き出すように話してくれる。
「でも愛する者への愛情が、全てを少しずつ歪ませていくんだ。
そしてその歪みが戻せない異質に変わって固まってしまう。
そして相容れないものになってしまう。
敵対してしまう。
善か悪か。敵か味方か。
どちらも元は一緒なのに。
私はね、何とも敵対したくないんだよ。」
リヒ様が私の瞳を捉えた。
透き通る紫水晶。
私の心を全て見透かしているようだ。
「だから何も深く愛したくないんだよ。」
私の心はズキリと痛んだ。
“深く愛したくない”
それは私の心に深く突き刺さった。
でも…私も同じだ。
深く愛したくない。
だってそんなことしたら…
私も歪んでしまう。